歌詞エッセイ 「サヨナラブルー」

もうすぐ春が来るな〜なんて考えていたら雪が降ってきたし、本当に寒いな〜なんて考えていたら暖かかったりした。 

今年はめまぐるしかった。 

そして僕は令和元年無事にハタチを迎えた。 

 「いや〜俺らももう20歳か〜、やっと堂々と酒が飲めるな!ま、俺は年確とかされたことないけど。

成人おめでとう!カンパーイ」 冷えたグラスはなんだか申し訳なさそうに僕のものだけ汗を流している。 

 「お前さ最近彼女とかできたの?」 「馴れ馴れしいな、お前といつから友達だったっけ」 …と心の中で思った「ああ、2年くらい付き合っている人がいるけど…」 「お前はほんと変わらないよな〜!俺なんてさ、大学で軽音サークルに入ってギター始めてさ、同じサークルの女の子と毎日飲み会だよ。リサちゃんって子がいるんだけど、俺のこと、なんか気に入っちゃってるみたいで。 しつこいんだよね〜。リサちゃん、顔は可愛いんだけど、おっぱいが全然ないんだよ!(笑)勿体無いよな(笑) で、リサちゃんが一番仲いい奴がアオイって子なんだけど、そいつと俺は入学した時から仲良くて。すごい探られるわけ、まじで一回ヤッただけで別になんもねーのにな。 アオイもアオイでリサちゃんの気持ち知ってるくせに「家泊まっていい?」っていちいちラインしてくるんだよ。 意味わかんなくね?本当困るんだよな〜。 だからさ彼女なんていない方がいいよ、女って面倒くさいし。 適当に遊んでるくらいがさ。」 

 こいつとは中学1年の時クラスが一緒なだけで、大して話したこともなかったはずなんだけど。 

お互い隅の方で大人しくしてたような気がするんだけどなぁ。 

 「ああ…なるほど…」 「てかさ!俺ギターやってるんだけど、お前もギターやってたよな?高校の時、バンドやってなかったけ?あのー、なんだっけ、小文字のnかmから始まるさ…」 「俺はベースを少しね」 「ベースか!ギターの方が目立つしかっこいいじゃん」 

死ね。と心の中で思った。 下手くそが、馬鹿にするなよ、と心の中で思った。 

ただし、心の中で、だ。 

 「そうかもな。」 と相槌を打ったところで、あのムカつく阿保は誰かに呼ばれて消えた。 

一生現れんな、俺の前に。 気づけば、騒つく心地の悪い空間の中にポツンと立ち尽くしていた。

別にどこかに行きたいわけではなかったし、呼ばれればそこに行っても良かった。 

ただ、特別話したい奴も思い出のある奴も好きな女も居なかった。 

昔からこうだったな、とか、もしかしたら昔はもっと器用にこなせてたかな、とかどうでもいいことを考えてた。 考えながら、振袖では隠されていた女の肌をぼーっと眺めていたら思い出した。 

1人だけいた話したい奴が。だけどあいつの姿は無かった。 

 高校2年生の夏、唯一、特別、仲が良かったナツキという女みたいな名前の男とバンドを始めた。

 「good night」という、「やっぱ夜の事歌えば売れるんじゃね!」と、何とも微妙な理由で、何とも絶妙なセンスのバンド名だったけど2人でつけた大事な名前だった。 

僕はベースとたまにコーラスをして、ナツキはギターとボーカルだった。 

僕が曲を作るとナツキはうんと褒めてくれた。 そして決まって僕が思い描くように歌ってくれた。 

こんな性格の僕だけど、あいつだけは好きだった。 だってあいつは凄く格好が良かったんだ。 

放課後にライブハウスに行ってスポットライトを浴びたり、音楽が好きな友達が少しだけだけど出来たり、変だけど面白い人生を歩んでいる先輩がいたり、学校では教えてくれないことを悪い大人から学んだり、つまんねぇ似たような奴ばっかりの為にならない授業を受けるよりもずっとずーーーーーっと楽しかった。 

それで僕は、そこで出会った2つ上の控えめで優しい"普通の良い人"みたいな山田と3人でこのままバンドを続けていきたいと思うようになっていた。 けど、どうやらそれは僕だけだったらしくて、あっけなく高校卒業と同時に good night は眠るように解散した。

死んだんだ。

ナツキはちゃんと勉強をして東京の国立大学に行ったし、山田は真面目に働いて恋人を養っていくと言っていた。

僕は2個しか違わないのに何言ってんだコイツ と内心思ったりもした。 

ナツキに関しては、本当に勿体ないと思った。 だけどあいつはバンドをやりながら勉強も頑張っていたし「夢がある」みたいな事を言っていたような気もするからやっぱりカッコいいなと羨ましくも思ったりした。 

そして僕は、なんとな〜くこんな退屈な街にいてもなぁって思いだけで唯一3年間で好きになれた音楽を学びに東京の専門学校へ進学をした。 

僕ら3人はずっと仲が良かったし喧嘩も滅多にしなかったから、卒業してから上京するまでの1ヶ月間くらいは沢山沢山ライブ活動をした。1日に2本ライブハウスをハシゴすることもあった。

そんなに会っていたのにそれっきりだ。それっきりまるで会っていない。 

僕は2人を忘れたわけじゃなかったし、嫌いになったわけでもなかった。だけど会う理由も無かったし、あの頃作った歌を歌ったり聴いたりする機会ももう無かった。 

捨ててきたのかもしれない、あの海に。 

いや、落としてしまったのかもしれない、知らないうちに。 気づかないうちに、スルッとヌルッと僕らのいわゆる「青春」とは疎遠に、遠距離恋愛に、いや、二度と会えなくなってしまったのかもしれない。 あーあ、こんな事ならもっと派手に燃やせば良かったなあ。 

なんて考えても、もうあの頃の山田と同い年だ。 今の僕は、山田みたいに「恋人を養うために働く脳」なんてのは持ち合わせていない。あいつはやっぱりすげえ奴だったな、と今は思える。

"普通"なのはどっちだよ!と今ならあの頃の僕に言える。山田はスーパーヒーローだよ。

僕らの救世主だったじゃないか。 ガッシャーン。 と誰かのビールグラスが割れる音がした。 

僕は我に返って、ああもう帰ろうと思った。 

いつか、ナツキと山田に会えるといいな と思いながら。 

いつか、僕がバイトをしなくても稼げるくらい立派な大人(ミュージシャン)になったら、あの2人を叙々苑にでも連れて行っていっぱい食べさせてやろうじゃないか。 そんなのはきっとすぐさ。 

だって、地味だったクラスメイトの知らない高校の阿保がぼんやりだけど僕らのことを覚えてくれていたじゃないか。 誇らしいことだな。 僕は一番平凡だった、僕が一番退屈で下らなかった。 

でも僕は僕だ。どう足掻いたって僕にしかなれない。 

さよなら、僕の思い出 さよなら、僕のブルー また会えたらいいね。


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 明日からこんな生活なくなるなら清々するなぁ やめてやりたくて やめられなかったんだ 殴り書き留めたルーズリーフも 聞き流したあの話も 別にいらないや もうサヨナラだね あたしの青い春 過ごした日々も 歌った曲も この海に捨てて行くよ じゃあね また何処かで会えたらいいね きっと広い世界の片隅で 


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