歌詞エッセイ「テトラポットとオレンジ」

テトラポットとオレンジ 僕の好きな人はいつも美味しそうにご飯を食べる。

僕の好きな人はいつも何でもないとよく笑う。 

僕の好きな人は時々寂しそうな顔をする。 

僕は僕の好きな人の事がよくわからない。 でも好きだ。 

 「もし明日、世界が終わるなら何をしたい?」 こんな悲惨な事を聞くようになったのは、いつからだろう。 

「えー、なんだろう。普通に暮らしたいかな、いつも通りに」 「そっかぁ」 正解がわからないのはきっと僕だけじゃないだろう。 

「おやすみ」 僕はこんな夢を見た。 

どこまでも続く、青くて綺麗な海の真ん中、小さな島に、君と2人で手を繋いで向かい合っていた。

 風が強くて、人の気配は全くしない。 

きっと、この世界には本当の意味で"ふたりきり"なのだと確信した。 

風の音と波の音でうるさいはずなのに、不思議と君の声はしっかり聞こえたのだ。 

夢の中の君は、真っ白なワンピースに裸足で、茶色い髪と裾が強く揺れていた。 

君となんでもない話をした。 両手を繋いで向かい合いながら笑った。 

「いつか香川のうどんを食べたいね」 「そうだね。でもわたしは海外にも行ってみたいな。なんかさ、もっと遠いところ」 「例えばどこだろう、イタリアとか!」 「ユウくんは王道だなぁ。」

 何でもない会話、何でもありすぎる状況、胸騒ぎがする、でもなんだか心地が良かった。 

「今日で終わりだね、ユウくん」 君は全てを分かっている神様みたいだった。 「そうだね。」 

どうやら、今日で世界は終わるらしい。 

「楽しかったな〜!なんだかもうちょっと生きたかったよ〜」 君がパッと手を離して伸びをする。 

ぴょんぴょんっとゴツゴツした大きな岩の方へ渡る。 危なっかしい。 君は本当に危なっかしいよ。 

「ユウくんは、生まれ変わったら何になりたい?」 「ヒーローとか!僕は、大切な人を守れるかっこいいヒーローになりたい!」 「なんだか子供に夢を聞いてるみたい。ふふ」 幸せだった。 

世界が終わるっていうのに。 僕は身体が浮くような気持ちだった。 

身軽で、今なら上手にダンスが踊れる気がした。 

僕もぴょんぴょんぴょんっと大きな岩の上へ上がった。 「ガタン!」 と足元の岩が崩れていく。 

ついに来たか、と悟った。 僕は君のいる方に飛び乗った。 

膝を擦りむいたけど、不思議と痛くなかったし血も出ていなかった。 

これが世界の終わりか…とも思った。 波は激しかったけど、音うるさくない。 

風は止む事を知らず相変わらずゴーゴー木々を揺らす、それから君の茶色い髪が可愛い顔を隠した。 

僕は必死で髪を掻き分けて、冷たくひんやりとした頬を両手で覆った。 

夕方のオレンジが、いつも見ている色よりも赤くて明るくて、君が笑うその唇と同じ色をしている。 

その時、僕はこれが幸せか とじんわりあったかい気持ちになった。 

音が何も聞こえなくて、君と目が離せない。 泣きながら笑う君が、すごく綺麗だったよ。 

僕の全ては、君だったと気づいた。 もう変なことは聞かないから、泣かないで。 

それから、僕は君の手を引いて海へ飛び込んだ。 

不思議なことに、苦しくない、すぅと息ができる。 

ワンピースも髪の毛もふわふわと海の中で浮遊し、人魚みたいだった。 

僕らは、多分世界で一番幸せなふたりだと思う。 ここでキスをして、もう死んでもいいと思った。 

僕がどんな風に笑っているか、どんな顔で泣いているか、その色を君がその目に焼き付けて覚えていてくれればそれでいいと思った。 十分だった。 それが今の幸せだと思っていた。 

 目が覚めたのは、朝の5時くらいで、眠い目をこすりながらカーテンのレースを被り外をぼんやり眺めていた。まだ人通りが少なくて、なんだか緑色のにおいがする。 

君が起きたら、話そうと思う、今日の夢の事。 

それから向き合おうと思った事、もっと素直になろうと思った事。 優しくなろうと思った事。 

君の話をちゃんと聞いてあげようと思った事。 

静かに眠る君の事をこうやって見守れる幸せを夢の中の僕は知っていたのになぁ なんて、思い返しながら、僕はまたゆっくり世界に溶けていった。 

この何でもない世界に。平和な地球に。 


 もし明日世界が終わるなら何をしたい? 寂しい が言えない 君のわかりづらい口癖 優しい僕なら笑って君の答えに寄り添えるかな いつか光が包む頃 何色に照らしてあげようか


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